砕けたガラスや窓枠の破片と共に、落下する人影。
そして――人影を中心に炎が 爆 (は)ぜた。
涼やかな夜気を舐めて燃え上がる炎に
急激に熱された大気が、
逆巻く熱風となって、あたりに吹き荒れる。
【唯】
「……《火》のエレメント」
眉をひそめ、熱風から視界をかばう少年の前に、
風に乗って落下の衝撃を 殺 (そ)いだ人影が降り立った。
無傷で済まない高さから落ちながら、
ダメージを受けた様子もなく、人影が身を起こす。
路上に立ち上がるのは、気弱げな風貌をした青年。
しかし、その身を包むものは、
青年の衣服に焦げ目をつけることのない異様な炎。
炎はまるで嘲笑(あざわら)うように、青年を抱いて揺らめく。
常識で考えるならば、あり得るはずのない光景。
あり得るはずのない現象。
けれど、その不思議に少年が動じることはない。
何故なら少年が属する世界でそれは、
謎めいたことでも、恐ろしいことでもないから。
そう。
得た力を青年が行使したなら不思議はない。
【唯】
「お前、まだ意識はあるか」
少年の問いかけに、青年の表情が苦しげにゆがむ。
【青年】
「……止められないんだ……」
【青年】
「僕にはもう、どうすることも……」
苦悶する青年の指が、震えながら少年に向けられる。
獲物を見つけた獣が舌をなめずるように、
炎は一段と高く、熱く、燃え盛った。
【青年】
「……逃げてくれ……」
警告を耳にして、けれど少年は逃げ出すどころか、
逆に手にした武器を構え直す。
【青年】
「いけない、逃げて……」
【唯】
「逃げるつもりはない」
【[青年]】
「……逃げて……」
【唯】
「《鎌》が、お前を解放する」
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