【唯】
「……動くな。動けば容赦なく斬る」


巻き上げられた風圧に、
対する相手の前髪がふわりと浮いた。

互いの表情がうかがえる至近距離で、
唯は、正体の知れぬ不審者と無言で見つめ合う。

【唯】
(こいつ――この状況で笑っている。
 ……侮れない)


相手の口元が笑みをかたどっていると気づいて、
警戒の視線をさらに強める。

鎌を相手の喉元に突きつけたまま、
目線よりかなり高い位置にある不敵な顔を睨め上げ、
冷ややかな声で、唯は問う。

【唯】
「お前、何者だ」

【唯】
「お前の身裡から魔術の残響を感じる。
 それも、先刻の《精霊》と同質の響きを――」


【リヒト】
「…………」

【唯】
「あの《精霊》を 喚 (よ)んだのは、お前だな」


【リヒト】
「そうだ――と言ったら、アンタはどうする?」

【唯】
「……お前の目的は何だ。所属組織は」


【リヒト】
「さあて、いったい何のことやら。
 とんと心当たりがないね」

【唯】
「とぼける気か……!」





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