【唯】
「……先生。こんな風にしてもらわなくとも、
自分でできる」
【飛鳥井】
「いいから、黙って。ちゃんと乾かさないと、
また熱が上がってしまうだろう?」
【唯】
「……あなたは過保護だ」
【飛鳥井】
「あはは、そうかも知れないね。
でも、それだけ君のことが気がかりなんだ」
【飛鳥井】
「部屋で寝ているはずの君が、
どこかに行ってしまったことを知った時は、
本当に心配したんだよ?」
【飛鳥井】
「炎天下の中で倒れたりしていないか、
また無茶をしていないか、気が気じゃなかった」
【飛鳥井】
「やっと見つけたと思ったら、
思った通り、君はあんな無茶をしているし……」
【唯】
「…………」
【飛鳥井】
「やっぱり、君は目が離せないよ」
【唯】
「……すまない」
飛鳥井は唯の髪を少しずつすくい、
タオルで包み込んで水気を取るようにしながら、
丁寧に濡れ髪を乾かしてゆく。
そのやさしい手つきに、唯は抵抗を諦めて、
されるがままになっていた。
【飛鳥井】
「唯くん……」
【唯】
「……?」
【飛鳥井】
「僕は以前、君に言ったね」
【飛鳥井】
「君は、《契約者》を選ばなければならないって」
【唯】
「……ああ」
【飛鳥井】
「他の魔術士から力の供給を受けなければ、
いずれまた、君の身体は、
ひどい渇きにさいなまれることになる」
【飛鳥井】
「君の身体に埋め込まれた《種子》のことを、
鳳城たちに知られたくない気持ちも、理解できる」
【飛鳥井】
「だけど、君が自らの命をこの世から消し去ることを、
ふたたび選択すると言うのなら……」
【飛鳥井】
「僕はもう、黙っていることはできないかも知れない」
【唯】
「先生……!」
【飛鳥井】
「脅すつもりは無いけれど、
君の命を、そんなことで失わせるわけにいかない」
【飛鳥井】
「恒常的な身体の飢えを満たすためにも、
いずれグレンと相まみえ、
その呪縛から逃れるためにも──」
【飛鳥井】
「心から信頼し、すべてを預けることができる相手が、
君には必要なんじゃないかな?」
心から信頼し、すべてを預けることができる相手。
そう考えた時、唯の脳裏に真っ先に浮かんだのは──
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