やがて――たどり着いた塔の屋上には、
唯が想像した通り、まばゆい陽の光に包まれて微笑む、
輝くようなエルネイの姿があった。
唯が探し求めた庇護者は、
陽光を弾き、千々にきらめく髪をあえかな風になびかせ、
蒼穹を背後に静かにたたずんでいる。
閉ざされた塔での限りなく孤独な幽閉生活から、
幼い唯を解放した人物──エルネイ・アウシュロス。
彼は、保護の名目で唯を高い塔に閉じ込めた、
対《精霊》魔術機関《オグドアス》の、最高権威者。
多くのすぐれた魔術士たちに、
憧憬と畏敬を込め、《祭司長》と呼ばれている青年。
エルネイは、唯におのれの力を制御する術を教え、
人々を畏れさせることなく、
普通の生活を送る機会を与えてくれた、魔術の師。
エルネイの存在がそばに無ければ、
おそらく、唯はいまだ高い塔の奥深くに囚われたまま、
荒ぶる力を持て余し、孤独に震えたことだろう。
【エルネイ】
「耳を澄ませてごらん、ユイ。
この世界は、精妙な響きで満たされている」
【エルネイ】
「お前には聴こえるはずだ――この音色が」
エルネイの言葉に、静かに耳を澄ませば、
世界を包む霊妙な音色の洪水が、唯の胸にも響き渡る。
【唯】
「……!」
この世界が見せた、あまりに美しくあまりにまばゆい、
存在の波動に満ちた情景に圧倒され、
そのまま、幼い精神(こころ)を呑み込まれてしまいそうになる。
【エルネイ】
「大丈夫──ユイ。怖れることはない」
【エルネイ】
「お前が心を開けば、
世界は、お前に教えてくれる」
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