主導権を握り、先手を取って行動する朱里の強引さに、
反感を覚える暇(いとま)もなく腕を引かれ、
気づいた時には、ベッドの上に転がされていた。

【唯】
「朱里!? お前、いきなり何を……」


【朱里】
「言ったはずだ。お前と契約の儀式を交わす──と」

【唯】
「な……!?」


【朱里】
「相手を選ぶだけでは、結びつきは成らない。
 儀式で二人が繋がることで、初めて契約は完了する」

【朱里】
「足りないお前の身体を満たすには、
 身も心も、誰より深くお前と繋がる必要がある」

【朱里】
「ゆえに、そのための儀式を、この場で行う」

【唯】
「……!」


【朱里】
「唯、お前の身体は強く求めている。
 力が足りず、満たされたくて限界に達している。
 その渇きを癒(い)やさねば、戦いには勝てない」

【朱里】
「お前を満たすのは、《契約者》たる者の務めだ。
 俺はお前に、俺の力を与える」

【唯】
「朱里……」


【朱里】
「では、《契約者》との交わりの儀式において、
 何が最も重要とされているか、
 お前も魔術士ならば、分かっているな?」

【唯】
「……ああ……心得ている」


【朱里】
「流れにあらがわず、精神(こころ)の障壁を取り払い、
 繋がる相手にすべてを許して、何もかもゆだねる」

【朱里】
「力を受けるため、お前は、その身体で──その心で、
 拒まず俺を受け入れる必要がある」

【唯】
「……っ……」

【朱里】
「俺を受け入れろ……唯」


食い入るような強い視線を、唯と合わせながら近づく、
常になく真剣な眸を間近に見上げれば、
受け入れたい思いと逃げ出したい衝動が胸に葛藤する。

緊張と不安に、あやうく揺れる唯のまなざしを、
無言のままに見つめる朱里が、
不意に頬をゆるめ、淡く唇に笑みを刷(は)いてささやいた。

【朱里】
「……どうした、怖いか?」

【唯】
「! オレは別に、恐れてなど……!」


【朱里】
「だったら、どうしてお前は、
 今にも俺を殴りつけて、この場を逃げ出しかねない、
 そんな張りつめた顔をしている?」

【唯】
「そ、れは……!」


【朱里】
「それは──?」


朱里の手が、強く押し当てられた箇所から伝わる、
純度の高い良質な魔力の気配に惹かれ、
奪われて渇いた身体が、力を求めてざわめき出す。

《種子》の影響により、年頃らしく成長しきれない、
細くやわらかな身体を検(あらた)めるように、
丁寧に撫で上げながら、朱里の手のひらが移動する。

張りつめて感覚が鋭くなった肌に、
シャツの薄布をたった一枚重ねただけで触れてくる、
力強い手のひらの感触を、やけに熱く感じる。

強い指先が敏感な肌をなぞり上げるたび、
ひどく落ち着かない、胸をかき乱されるような感覚が、
身体の奥からじわりと込み上げる。

あたたかな太陽の熱を受け、若葉が芽生えるように、
朱里のもたらす力に煽(あお)られた身体が、
忘れようと心がけた、熱をはらんだ感覚に目覚め出す。

【唯】
「……っ……」


無骨に見える朱里の指が、小さな釦(ボタン)を器用に外して、
唯の素肌を隠した上衣をはだけさせる。

しどけなく乱れた、シャツの間からのぞく白い肌に、
朱里はためらうことなく触れた。

【唯】
「なっ、待て、朱里……!?」


【朱里】
「断る」


あまりに強い刺激を直接的(ダイレクト)に与えられ、
たまらず、逃れようと身じろぐ未成熟な身体を、
焦れた腕が押さえ込み、抵抗を封じる。

【唯】
「朱、里……!」


【朱里】
「じっとしていろ──唯」

【唯】
「っ……!」


強引な腕にあっさりと前を開かれ、
冷たい夜気にさらされた無防備な肌にもたらされる、
朱里の指の熱さを、痛いほどに感じる。

たった一枚、衣服を剥(は)がれただけというのに、
ひどく心許ない気持ちにさせられるのは、
唯のすべてを暴こうと見つめる、強い視線のせい。

【唯】
「……見る、な……」


自分でも驚くほど、頼りなげに響いた声に、
唯の頬がたまらず羞恥に染まる。

思わず見せてしまった初々しい反応に、
目を細め、小さく微笑み返した朱里の愉しげな表情に、
頬を朱に染めた熱が、ますます高まる。

【朱里】
「精神(こころ)の障壁を取り払うため、
 こちらから、もっと積極的に動かせてもらう――」

【唯】
「え……?」


力強い宣言と共に、朱里の指がさらに容赦ない動きで、
唯の抵抗を奪うべく素肌に触れてきた。

【唯】
「うあっ……!」


新たに与えられた刺激に、びくんとすくみ上がる身体を
逃げられぬよう、朱里は寝台に深く抑え込む。

【朱里】
「……俺から逃げるな、唯」

恥じらい、逃げを打とうとする態度が気に食わないか、
少し不機嫌な声を耳朶に吹き込んで、
腕(かいな)の下に捕らえた身体を、朱里は容赦なく責め立てる。

【唯】
「……く、あ……っ」


気を抜けば、朱里を求めていることが明らかな、
慎みのない声を上げてしまいそうで、
唯は震える唇を噛み締め、込み上げる衝動をこらえる。

【唯】
「っ……! ん、う……っ……!」


【朱里】
「……あまり無理に声を殺そうとするな、唯。
 それではお前が辛いだけだ」




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