やさしくあたたかな熱を伝えるリヒトの手のひらは、
無防備な柔肌の上にゆるやかな弧を描いて、
自(みずか)らが暴いたその場所を、確かめるようになぞる。
ゆるやかに丹念に唯の強ばりを解きほぐすその動きに、
抑えようとしても緊張を覚える手足から、
少しずつ硬さが抜けて、広がるように熱がめぐり出す。
火照った額に汗が珠を結んで、
鞠のようになめらかな肌の上をひと筋、すべり落ちる。
【唯】
「ふ……あ……」
締まった稜線を描く下腹をなぞり、
浮き出る筋肉の動きを確かめながら指先をはわせて、
リヒトはゆっくりと奥に力をすべり込ませる。
【唯】
「んうっ! あ、く……ふ!」
灰の下にくすぶる 埋 (うず)み火のように、
唯の最奥で今や遅しと灯される時を待った官能の火が、
注ぎ込まれた刺激にあやしく燃え上がる。
【唯】
「う、く……あっ、あ……」
【唯】
「……っは、あっ……あっ……」
下腹にあてがわれたリヒトの手から、
少しずつ奥に送り込まれる力が唯にもたらす快楽に、
なかば意識と理性が飛んでいたようだった。
【リヒト】
「……だいぶイイ顔になってきたな、ユイ」
【リヒト】
「そろそろ理性の 箍 (たが)も甘くゆるんで、
頑固な 精神 (こころ)もほどけてきた頃じゃないの……?」
【唯】
「そ……んな、こと、な……!」
【リヒト】
「隠しても無駄だ……」
【リヒト】
「アンタの覚える快感は、ちょっとずつではあるけれど、
オレにも伝わっているんだからさ……」
言葉通り、唯の熱に感応を受けているものか、
リヒトの呼吸もわずかに上がり、
いつも憎らしいほど冷静な額に綺麗な汗の珠が浮かぶ。
からかうような指摘を受けて、反射的に覚えた反発も、
同じように情熱に潤む眸を見つけて、
何となく唯の胸中で小さくなって治まってしまう。
行為に抵抗する気持ちが少しゆるんで、
またひとつ、リヒトとの間の障壁がほどけたのだろうか
その手から伝わる感覚がさらに深く濃厚になる。
【唯】
「ふっ! ……あっ、ああっ……!」
【リヒト】
「ほら……自分の声を聞いてみろよ。やっぱりアンタ、
オレの手にどうしようもなく感じている」
【リヒト】
「オレにされていることが、
アンタは気持ち良くてたまらないんだよな?」
【唯】
「ちが……っオレ、は……!」
【リヒト】
「違わないさ。気持ち悪いわけないよな?
そんな顔を見せておいて、さ。
どっちかと言うと気持ちよすぎて怖い……だな?」
【唯】
「ふ……うっ……」
図星を指され、思わず黙り込んでしまった唯の鼓膜を、
リヒトの楽しげな笑い声がやわらかく打つ。
なされる行為に、苦痛や嫌悪を感じるわけではない。
行為によってもたらされるのはむしろ、
えも言われぬあやしさに満ちた、悦楽と恍惚と陶酔。
抗いがたい引力を感じる感覚に引きずられ、
どこまでも堕ちてしまいそうな、
ひどくあやうい魅力が、この行為にはつきまとう。
快楽に 耽溺 (たんでき)し、すべての理性を手放し、
何もかもなげうって流されてしまってはならないが、
かたくなに感覚を閉ざしていては、
精神 (こころ)を解放し、障壁を解くことなど出来ない。
【リヒト】
「なあ……声を殺すなよ、ユイ。
オレの手で感じる、アンタの声を聞きたいから」
【リヒト】
「ふたりで深く交わるために、
オレはアンタの感覚をこの手に握る必要がある。
感じていることをオレに隠すな」
【唯】
「く……うっ……ううっ……!」
【リヒト】
「アンタの恥ずかしいところ……もっと見せてくれよ。
ここを隠すものは全部取っ払って、
何もかも剥き出しにオレの前にさらけ出すんだ」
【唯】
「っあ! あっ、ああっ!」
またひとつ、ふたりの間を分かつ障壁がもろく砕けて、
送り込まれる感覚に内側を深くえぐられる。
もうあと少しでリヒトの力は《種子》に届く。
求め飢え渇いたそこに熱く注ぎ込まれる期待と不安が、
ない交ぜになって胸を衝き上げた。
ほとんど力ずくに覚えさせられる感覚に、両脚は震え、
熱に浮かされたような身体は、より熱く高まる。
リヒトを求め、感じていることを如実に示す自身が、
恥ずかしくてたまらないけれど、
現在、唯がこうなることをリヒトも唯も望んでいる。
だから、乱れる呼吸を振り絞って、唯は声を上げた。
【唯】
「も……余計なこと、言う、な……!」
【唯】
「声、も……出す、から、
もっと、オレにぜんぶ……忘れさせ、ろ……っ」
【リヒト】
「!」
【リヒト】
「了解した……アンタの仰せのままに、ユイ」
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