● シナリオ/鷹見ルート ●
ふと、間近に人の気配を感じてまぶたを開くと、
前髪が触れそうな近くに、
誰よりなじみ深い顔が、真上から伶を見下ろす。
【伶】
「……鷹見?」
じっとのぞき込む瞳と視線が合った。
何故、こんなごく近いところに鷹見の顔があるのかと、
伶は不思議に思いながら、その名を呟く。
【鷹見】
「……! れ、伶! 起きたのか!?」
まさに跳び上がらんばかりの勢いで、
顔を真っ赤に染めてうろたえた鷹見が、背後へ退(すさ)る。
あまりに慌てて飛び退いたせいで、
鷹見は見事に足を滑らせる。
【伶】
「……何をやっているんだ、君は。
それは、僕を笑わせるためにわざとやってる?」
【鷹見】
「そ、そんなわけないだろうが!」
【伶】
「……鷹見? どうして君がここに?
いつこちらに来たんだ」
【鷹見】
「……9時だ」
【伶】
「そう。それで、今は何時?」
【鷹見】
「………………
…………
……11時過ぎ」
【伶】
「……何だ、そんなに早く来ていたのなら、
どうしてすぐに起こさなかった?」
【鷹見】
「そ……れは、その……」
【伶】
「よほど暇を持て余しているようだね、君は。
――そんなにすることがないの?」
【鷹見】
「ひ、人を隠居老人みたいに言うな!
俺はな、忙しいところわざわざ時間を割いて、
お前に会いに来てやってるんだぞ!?」
【鷹見】
「お前はいつもその調子だな!
少しくらいは俺に感謝するとか、ねぎらうとか、
そういう殊勝な態度を見せても……」
【鷹見】
「……おい、聞いてるのか、伶?」
【伶】
「……君、僕に会うためだけに、
わざわざ仕事を放り出してここに来たの?
忙しいと言いながら?」
【鷹見】
「……っ! いや、それはだな……っ」
【伶】
「その上、2時間ものあいだ君は、
何もせずただぼんやりと、
僕の寝顔をのぞき込んでいたんだね」
【鷹見】
「……う……」
【伶】
「鷹見。ひとこと言わせてもらうよ。
君って本当に……」
【伶】
「……馬鹿だね」
【鷹見】
「う、うるさいっ!」
【伶】
「はは、自分でもそう思っている顔だね、それは。
馬鹿なことをしていた自覚はあるんだ」
【鷹見】
「――もういい、俺は帰る!
用もないのに邪魔して悪かったな!」
【伶】
「ああ、すまない、からかったりして。
せっかく来てくれたんだ、まだ帰らないでくれ」
【伶】
「当然ながら、君も昼食はこれからだろう?
君さえ良ければ、僕と一緒に食事を取らないか?」
【鷹見】
「……おまえと?」
【伶】
「そう。僕と、二人で」
【伶】
「笑ったおわびに、ランチのデザートには、
君の好きな水蜜桃のムースを添えてもらうから。
それで手を打たないか?」
【伶】
「ね、鷹見――どうする?」
【鷹見】
「…………
……食べる」
【伶】
「では、決まりだね。それじゃ、ランチの件を、
真璃絵に申しつけておいてくれないか」
【鷹見】
「――おい! あいかわらず人使いの荒い奴だな!」
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